――ああ、カッコ悪い……。


能面のような顔をしている芸妓への不快感か、はたまた一旦、酒が入ると涙腺が緩くなってしまう自分に対しての自嘲か。


そんな感情を抱いた瞬間、光の身体は後ろから伸びてきた手によって、捕らえられ、強く後ろに引き寄せられた。


(ああ、この手は……)
最早、直ぐに誰か分かった光は、確信を持って手の主をそっと振り返る。


「飲み過ぎだ。
――……何だ、また泣いているのか」


「うっ……烝……」


そこには呆れた顔をしている山崎が中腰になっていて、振り返りながら倒れそうになる光の背中に手を回して支えていた。


いきなり引き寄せられたからか、酒に冒されている頭には、それが大きな衝撃となり、視界がぐらぐらと揺れる。


脳が揺れる感覚とはこのようなものなのだろうか。大層、気持ちが悪い。いつの間にか意識までもが酔っていた。


「……うるさい。
泣いてなんか……ない」


「酒飲んだか……泣き上戸のくせにな」


まるで笑っているように聞こえ、少しむっとした光は、酔った勢いで普段は絶対に口にしないであろう台詞を口にした。


「……烝しか知らないからいい……。烝の前しか……泣かないから……」


「…………。嘘つけ」


度数の強いであろうアルコールによって、思考が白く霞んでいく。頭を軽く撫でられたようだが、光の視界には曖昧に笑う山崎が映ったような気がした。