新撰組のヒミツ 壱

心臓が早鐘を打っている。


烝はいきなり何を言うんだ……、と思った光は、思わず笑ってしまいそうになった。いや、唇は少し弧を形取っていたかもしれない。


「……今日の烝は何かおかしいな」


いきなり怒ったり、脅しで首を締めようとしたり、きつく抱き締めたと思えば、一緒に逃げるか、と問うてきたり……。


挙げ句の果てに、「ずっと側にいる」と?


仕事人間である山崎は、仕事をし過ぎる余り、おかしくなったのだろうか。いやに高鳴る胸を押さえると、浅くなった呼吸を静め、唾を呑んだ。


「……いつもの烝じゃないな。『局を脱するを許さず』を忘れた訳じゃないだろ。そんなことをすれば切腹だよ、切腹」


「……冗談や冗談。逃げる言うても、誰も壬生浪士組(ここ)を脱走するなんて言うてないやろ」


澄ました声音でそう言う山崎に、光は「この屁理屈が」と、小さな声で毒づいた。勿論、山崎に聞こえるように言ったため、「何やて」と更にきつく身体を締められたのだった。


そこに、背後からザッという砂利を踏みしめるような音が近付いてくる。山崎はすぐさま反応し、動けないでいる光を解放した。


「山崎、昼間っから盛ってんじゃねえよ」


そう言いながら近付いてきたのは、意味ありげな笑みを浮かべる土方である。口調はきついものだが、声音にはからかうような色があった。