――芹沢さんもよく了承したな。自分の首を自分で締めて……あの人は私の理解を超えている……。


視界の端に楠を捉えながら、光はさり気なく尾行する。だが彼は、隊士のいる大部屋の方へ行ってしまった。


(……そう言えば、今日は稽古指導だ)


そんなことを考えていると、山崎が後ろからいきなり「光」と言って声を掛けてきたため、思わず肩を震わせて身構えた。


「……お願いだがら、気配を消して近付くな、烝。反射的に斬りそうになるんだ」


懐に入れた手は、クナイを握っていたのだ。もう少しで山崎を傷つけたかと思うと、光は全身がぞっとする気持ちになる。


「けったいな癖やな……。せやけど心配すな。お前に斬られるほど、腕、落ちてへんから」


「だろうね」


否定する言葉が浮かばない。光が苦笑しながらそう言うと、山崎は珍しいものを見るような、心底不思議そうな顔をした。


「どないしたん……負けず嫌いのお前がそないなこと言うの、珍しいやないか」


「そう? いや、それより午後は稽古があったんだ。悪いけど、さっきの事は烝に任せるよ」


よろしく、と言って後ろ手に手を振ると、何も言わない山崎を残して、袴に着替えるために自室に向かった。