藩邸とは、幕府も朝廷も簡単には手出しが出来ない治外法権の場所だ。逃げ込まれる前に捕まえたいところである。


しかし、誰か一人でも取り逃がせばどうか。


顔を見られるのは、潜入捜査が出来にくくなるためまずい。変装をするとは言っても、危険性はなるべく取り除くべきだからだ。


――……いや。仕事が回ってこない監察など、顔を見られても見られていなくても同じか?


復讐を求める凶暴な本能と、監察方として、このまま奴らの様子を隠れ見る理性との狭間で揺れ動いた。


「………………ちっ……」


口汚く舌打ちをした光は、眉間にしわを寄せて、触れていた懐の短刀からゆっくりと指を離す。


情報の一つや二つ、尋問して聞き出したいところだ。


しかし、冷静になって考えてみると、沖田と山崎を屯所に向かわせた時から、これは最早監察方としての任務となっている。


――やっぱり迂闊には動けないな……。
参ったというようにため息を吐いた。


横に道を逸れると、光は息を潜める。数秒後、侍の集団が近くを通過するのを待って外に出た。