それは、まぎれもなく杉本だった。 俺が逃げ続けた現実をつきつけられて、息をするのも忘れ突っ立っていると。 「大野くん」 杉本は、昔と変わりないふんわりとした笑顔で俺の名を読んだ。 「杉本……」 「久しぶりだね」 「あ、ああ」 どうしても杉本の顔を見ることが出来ず、視線を反らせてしまう。 「僕、ここの7階で働いているんだ」 そう言って、上を見上げた。 杉本はネクタイを締め、首からスタッフの名札をぶら下げている。 「さすがに医者にはなれなかったよ」 杉本はあっけらかんと言って笑った。