【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「さっき、泣いていた理由を」


「……え?」


今までの話の流れからてっきり、好きな漫才のネタでも聞かれるのかと思っていた優花は、意外なリュウの言葉に、虚をつかれて目を丸めた。


「言いたくないのなら、無理には聞きませんけど、気になってしまって……」


いきなり目の前でよく知らない他人がボロ泣きしたら、優花でも気にはなるだろう。


ただ、その涙の理由を、直接本人に聞くことはしないだろうが。


好奇心よりも、個人のプライベートに踏み込むことへの遠慮が、上回ってしまうのだ。


率直に疑問を質問に変えてくるあたりは、やはり欧米人ならではの、積極的な性格の現れだろうか。


「えっと、あのね……」


涙の理由。


玲子は晃一郎のせいだと決め付けていたが、 決して、頭をかき回す晃一郎の手が乱暴で、痛かったから泣いたのではない。


自分でもどうしてだか分からないのに、理由を問われても、困ってしまう。