【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「ああいうのを、『夫婦漫才』と言うんですね」


「……え?」


夫婦……漫才?


リュウの唇から飛び出してきた意外すぎる単語に、優花はキョトンと目を丸める。


「コウとレーコの二人のことです」


コウとは晃一郎、レーコとは玲子のことだろう。


そういえば、優花のことも最初から「ゆーか」と、名前で呼んでいた。


「ゆーか」と呼ぶときだけ、若干、声のトーンに甘さが加味されている気がするが、おそらく優花の気のせいだろう。 


アメリカと言うお国柄か、知己を得た人間を、ファースト・ネームで呼ぶのが彼の流儀らしい。


「夫婦漫才って、知ってるんだね、リュウ君」


「ええ。大ファンです。楽しいですよねアレは。ただの喧嘩のように見えて、その奥に込められている愛憎模様が、なんとも言えず楽しいです」


「愛憎……」


晃一郎と玲子の愛憎模様とやらを想像して、思わず優花は小さく吹き出した。


「やだ、リュウ君ってば、日本語上手すぎ」


「そうですか? 褒めてもらえて嬉しいです」


意外だが楽しい話題に、自然と優花の気持ちもほぐれていく。