【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「なんで俺が……」


とブツブツと口の中で文句を言いつつ、優花の隣から立ち上がろうとしなかった晃一郎は、玲子に引きずられるように、コートに引き出されて行く。


その姿を、優花は、ぼんやりと目で追った。


皆から少し離れた壁際に残されたのは、優花とリュウの二人。


「隣に座ってもいいですか?」


ニコリと柔らかな笑顔で問われ、優花の鼓動はドキリと跳ね上がった。


異性に対する恋愛感情的なものからではなく、そこに宿る既視感に、跳ねた鼓動は変なふうに乱れてしまう。


向けられる瞳は、深い海の底のような、ディープ・ブルー。


すべてを優しく包み込んでくれそうな包容力のある、この深い瞳の色。


やはり、知っている気がする。


「あ……、うん。どうぞ」


コロンだろうか? 


微かな柑橘系の香りを身に纏って、優花の隣にフワリと腰を下ろしたリュウは、愉快そうにコートに視線を走らせながら、予想外のセリフを吐いた。