赤子なんて見えないし、鳴き声も聞こえない。
「……め……め、……の」
あるのは黒い人の歌。
好美の想像が正しければこう見えた。
母親が、赤子をあやすために抱いて、歌を口ずさむ。
だとしたらあれは子守唄だろうか。
確かにのんびりとした感じがする。
薄気味悪いは消えないものの、通りすぎて、歌も聞こえなくなった今、好美は考えるのをやめた。
そろそろ階段のせいで膝が痛くなってきたところで、階段の切れ目を見る。
山頂ではないものの、ずいぶんと登った気さえした。
はあと大きく息を吸って――吐くのを忘れた。
「なに……これ……」
恐らくは渉の家があるここは、一枚の絵のように“ふざけた産物”に見えたのだ。


