だとしたら何かの勧誘だろうか。それも父親がめっきり帰ってこなくなった時からかかっては来なかったが――何にせよ、居留守を使うのは悪いと好美は受話器を取った。
「はい、もしもし。柏木(かしわぎ)ですが」
姓を名乗る一般的にして凡庸な挨拶だ。
これで不愉快になる輩はいないが、なぜか電話向こうの相手は無口だった。
「もしもし……?」
――いたずらか。
無言電話という嫌がらせを受けることはない――いじめについては、あれはあくまでも学校内での出来事でしかない。無視を決め込むクラスメイトがわざわざ好美の家まで電話するのを想像するには難しかった。
電話帳に番号が乗っている以上、暇人が公衆電話から手当たり次第にかけて、無言を決め込み、ほくそ笑む姿なら想像できる。


