「に、逃げっ」
「大丈夫。行きましたよ」
言われたことにまさかっと好美は思ったが、事実、後ろにはあの女はいなかった。
「う、そ……」
助かったと自覚したのは、腰が抜けて、地に膝をついてから。
ぺたんと座り、呆然と何もない通りを見た。
「やはり、口裂け女は流行っただけあって、弱点が多いですね。犬が来ますよもまるっと」
独り言なのか話しかけているのかは知らないが、少年はマントの下――正しくは胸ポケットに入っていた黒い手帳とペンを取り出し、何かを書いている。
マントの下は詰襟学生服。学生帽といい、マントといい、年相応であってもそれは一昔前のスタンスでしかなく、好美の目からは変わった子としか見られなかった。


