目的地など定まらないまま、ただ逃げるの選択を持って、好美は走った。
どこかに逃げ込めばいいものの、冷静な判断はアレを見た場所に捨ててきたのだ。
一刻も早く、一秒でも早く。
「ねえ、ねえ」
この声から逃げたかった。
振り向くことはなくとも、女の声が真後ろからする。
噂が正しければ、口裂け女はカマを持って切りかかるらしい。
だとすれば、好美の頭にあるのは“カマを持って追いかけてくる女”の姿だ。
涙で前が霞もうとも、腕で拭う暇も惜しいか、ひたすらに好美は逃げる。
もはや心臓が恐怖からか走っているからか、いったいどちらで鼓動を早めているのかが分からない。
もうそこまで来ている。もうそこにいる。いた、いる、カマを、振り上げ、いて、もう――


