『椿を殺したくない……でも私、消えたくないの……椿が好き……』

「ちあっ……落ち着い――」

 俺が千秋に手を伸ばした瞬間――

『触らないでッ!!!』

 千秋は叫ぶ。

『見てよこの爪……こんなんじゃ私、椿に触れられない……椿を傷つけてしまうの』

 千秋の辛そうな顔は、ふくらはぎの痛みとは比べ物にならない程に痛くて。
 俺は、どうしようもなく無力で。
 伸ばしかけた手を、静かに下ろした。

『もう嫌っ!! 何で……こうなっちゃったの? どうして?』

 俺は

『どうすればいいの……このままじゃ私、きっと椿を殺してしまう……この爪で』

 千秋が

『ごめんっ……椿……痛かったよね――』


 好きだ


「千秋!!!」

 長い爪?
 そんなの関係ない。
 鋭い爪が体に刺さろうとも、俺は千秋を抱き締める。

「痛いのは……千秋だろ? 千秋が一番痛がってる」

 案の定、俺の肩に千秋の爪が刺さる。

『つば……肩がっ』

 それでも俺は離さない。