俺がこうして逃げたところで何も変わらない。
 俺はどうすればいいんだ……。

「はぁっは……ぁ」

 そういえば俺、起きてから何も食べてないんだった。
 うう、後悔。

 強い日差しが俺の体力を奪っていく。
 少し走ったところで、走るのをやめて歩き始めた。

「まあ千秋は運動神経無いし、そう簡単に捕まら――」

『呼んだ?』

 後ろを振り向くと、千秋。
 爪の先で俺の腕をつついている。

 痛いって!!
 ってか、速っ!!

『鬼になったから、早く移動できるようになっちゃった』

 なっちゃった、じゃねぇよ。
 それはちょっと俺が不利なんじゃないか。
 最初から完全に俺が不利な訳だけど……。


 ――って悠長に考えてる場合か!
 逃げなきゃ!!!!

『あ! 待っ――』

 俺が走りだした時、千秋が爪で俺の頬に浅い切り込みを入れた。

「痛っ――」

 切れた箇所がぶわっと熱くなる。

 意外と痛いんだな。

 そう思いつつも、俺はそのまま走った。