見るからに彼女は清楚でしとやかだった。


けれど、その水色の瞳だけが異様に奇妙で、幽霊のように美しいのに、どこか野性的な強さがあった。


小さく儚く美しく、物静かな中にどこか凶暴で独特な雰囲気に、煌の父は金縛りにあったかのように硬直してしまった。


『それまで出逢った中で何番目に可愛いとか美しいとか、そういう次元の問題ではなかったって。いつだったかな……父が恥ずかしそうに話してくれたんだ』


しゃんと伸びた美しい姿勢。


毒々しいほどに濃く赤い紅をさした口元をにこりとさせて、


桜はお好きでございますか?


とヨシノ桜を見上げた彼女はどこもかしこも隅から隅まで、見れば見るほど整っていたそうだ。


『おそらく、父は、ひと目で恋に落ちてしまったのだろうね』


それから煌の父は、彼女に猛烈なアタックを始めたそうだ。


『でも、全く振り向いてもらえなかったって。当たり前だよ。その時、母には恋人がいたのだからね』


何度アタックしても、その回数分、きっちりと断られたらしい。


恋人がいるのだと。


会えなくても恋人と言えるのかと聞いた彼に、彼女は微笑み、こう答えたのだという。


それでも大切な人なのです。


もしかしたら、もう、連絡もいただけないのかもしれないですけれど。


待っているだけで幸せなのです。


想っているだけでも十分、幸せなのです。


と。


『その健気さに父はますます惹かれてしまったらしいけどね。さすがに諦めるしかないと思い始めた矢先だったらしい』


その瞬間は、その年の冬に突然、何の前触れもなく訪れる事になった。


『ふたりが初めて顔を合わせた桜吹雪の夜のように、東京に初雪が舞った、とても寒い日だったって』


夜も更けて、日付が変わろうとしていた頃、鷹司一郎の携帯電話に公衆電話からの着信があったそうだ。


出てみると、その声は高城紘子だった。