『もしもし? 東子? 元気なの?』


この街のマンション街で、私が住んでいる部屋は最高の条件が揃っているのではないかと思う。


「ええ、元気よ。お母さん」


古くはないし、かと言って新しいというわけでもないが、駅の大通りからも職場からも近く、スーパーもコンビニもドラッグストアーだって近場にある。


『安心したわ。全然帰って来ないし、連絡も滅多にくれないんだもの。お父さん、心配してるわよ』


「ごめんなさい。忙しいのよ、仕事。これからはできるだけ連絡するようにするわ」


『年末年始は帰って来れるでしょ? お父さん、会いたがっているの』


「まだ、何とも言えないの。決まったら連絡するから」


マンションの最上階を選んだのは、夢だったからだ。


一番高い場所、夜景見放題の所に住む事が。


それが、私の一番の夢だった。


だけど、叶った瞬間、一気に興ざめだった。


夢のために必死にした勉強も、必死に貯めたお金も、ばかばかしいと思うくらい。


それに、ますます孤独を感じる時間が多くなった。


『そう。連絡、待ってるわね』


けれど、それでも良かった。


一刻も早く実家を出たかったのは、明確だったから。


『帰って来れたらその時は、東子の好きなフレンチ食べに行きましょうね』


私、フレンチはあまり好きじゃないのに。


「……ええ」


私には、優しい両親がいる。


とてもとても、優しい。


父は歯科医師で、母は美人だ。


ふたりとも、優しい。


でも、その異様なまでの優しさは、私に向けたものではないし、偽りだ。


……本当の両親ではないのだから。


『ところで、式の準備は順調なの? お母さんとお父さんに手伝える事があったら言ってね』


それでも、ふたりは本当に良くしてくれる。


私を児童養護施設から引き取ってから、ずっと。