フィレンツェの恋人~L'amore vero~

シラヌガホトケ。


確かにね。


何も知らずにいた方が幸せなのかもしれない。


『たったいま入って来た速報です』


女性キャスターの声が、家電量販店のスピーカーから大音量で響き渡る。


どうやら近くで殺人未遂事件があったらしい。


『北区3丁目中通で殺人未遂事件が起きたもようです』


この街で一番大きな家電量販店のショーウィンドウ前で通行人が足を止め、人だかりが大きく膨らんで行く。


『犯人は現在も逃走中とみられ、現在、警察が行方を追っています』


ご苦労様なことだ。


クリスマス・イヴだっていうのに。


こんがり焼かれたチキンも、生クリームたっぷりのケーキも、シャンパンも口にできないどころか。


この寒空の下、血眼になって犯人捜しだなんて。


警察という職業は大変だ。


犯人も犯人だわ。


犯行に及ぶなら別に今日じゃなくてもいいだろうに。


何だって、わざわざ今日みたいな日を選んで犯行に及んだのかしら。


どうにせよ、お気の毒様。


ああ。


お気の毒なのは、私も同じか。


まったく。


クリスマス・イヴだっていうのに。


犯人に言ってやりたい。


どうせやるなら、なぜ、私をターゲットにしてくれなかったのか。


どうせやるなら、私にしておけばよかったのに。


今の私は、正直、命など惜しくないもの。


どうせもう、大切なものを失ってしまったのだから。


生きるも死ぬも、そう変わりはないもの。


だって。


ほんの数分前に、私は婚約者を失った。