「ハルもね。変よ」


私はぎこちない微笑みを返した。


すると、ハルもだんだんぎこちない微笑みに変わって、それが苦笑いになって、最後はしゅんと肩をすくめた。


「うん……今日のぼくは、明らかに変だ」


「似た者同士ね。私たち」


今度は、私がハルの手を引いて歩いた。


ハルは黙ってついて来た。


あのクリスマス・イヴの夜のように。


私のうしろを、ひたひたとついて来た。


雪が全ての音を吸い取って、街の底を白く染めていく。


ハル。


あなたはきっと、いつかは居なくなるのでしょうね。


私の前から、居なくなるのでしょうね。


だけど、できるなら、もう少し。


もう少し長く、一緒に居てくれないかと、私は思っているのよ。


ハル。


あなたが本当はどんな子なのか、そんな事はもうどうでもいいから。


少しでも長く、一緒に。


ハルの手を引きながらそんな事を思った。


だけど、言葉にしなかった。


言葉にできなかったわけではなくて、しなかった。


それを言葉にしたらその瞬間に、ハルがふっと居なくなるような気がして、怖かったから。


羽毛のような雪が降りしきる中、私たちは無言で歩き続けた。


だけど、マンションの前で突然、ハルがびたっと立ち止まり、繋いでいた手がほどけた。


「ねえ、東子さんは、どう思う?」


「え?」


振り向くと、ハルは眼鏡を外して言った。


「ぼくは、こう思うんだ」


切れ長のエキゾチックな目を細めながら。


「Sei il mio destino」


「……何? それ」


ハルの真後ろに灯る上弦の月が、雲に隠れていった。


ハルがもう一度繰り返す。


「Sei il mio destino(あなたは、ぼくの、運命だ)……東子さん」


「……分からないわ」


眼鏡を外したハルは、なぜか、泣きそうな顔をして静かに静かにうつむいた。


「大人になりたい」


そう呟きながら。