「分かったわ。どうしたの、ハル」


「……言いたくないんだ」


「へんな子」


私は立ち上がり、真っ直ぐバスルームへ向かった。


私の後にハルがシャワーを浴びて、バスルームから出て来たハルは、


「すっきりしたよ」


すっかりいつもの調子に戻っていた。


「今日もここで眠るよね」


寝室から一枚の毛布を引きずって来たハルが、


「消すよ」


といつものように明りを消した。


「眠ろう。今日は疲れたよ」


「そうね」


真っ暗な空間に、ふたつの声が響く。


窓の外では、アルテミスが夜空を照らしている。


今夜も私たちはリビングのソファーで一枚の毛布を分け合って、肩を寄せて眠るのだ。


プラトニック、に。


「ああ、そうだ。東子さん」


暗く沈んだリビングに、少し微睡んだハルの声がじんわりと溶けだす。


「オリオンのネックレス、東子さんが持っていて」


だから、私も静かに返事をした。


「なぜ? 大切な形見なんでしょう?」


「うん。だから、東子さんが持っていて。いいね」


ことん、とハルの頭が私の右肩に落ちる。


同じシャンプーの香りがする。


「分かったわ」


ハルが寝ぼけた口調で言った。


昔、祖母が言っていた、と。


「そのネックレスを作ったアクセサリー職人に、祖母が言ったんだ。真実の愛の形にしてくれって」


「もしかして、アルテミスとオリオンをイメージして作られた物なのかしら」


「そうかもしれない」


「素敵ね」


短い沈黙の後、蚊の鳴くような声でハルが言った。


「L'amore……vero……」


「え? 何? 何て言ったの?」


急に、右肩がずしりと重くなった。


「……ハル?」