「なに泣いてんだ、お前」
僅かに反応してしまったのは、空耳かと思う以前に声の若さからだったと思う。
おもむろに、恐る恐る。ほぼ視線だけで見上げると、瞳に映った人影にバクッと大きく心臓が跳ねた気がした。
薄暗いこの場所では顔すら判別できず、けれど逆光に輪郭を縁取られた姿は、確かにここに存在することを主張していた。
誰……? なんでこんなところに人がいるんだ。
自分の状況さえ忘れて見上げていると、その人はしゃがみ込む。
「……うわ、すげー傷」
傷を隠すために被っていたフードをあっさり取らせてしまったのは、目の前に現れた彼のせいだった。
「親父にでも殴られたか?」
そう言って笑う、ぼさぼさの髪をした男の子。
お世辞にも綺麗とは言えない乱れた髪型は顔のほとんどを覆い隠し、かろうじて確認できるのは左目と口元くらいなのに、目を奪われた。
暗闇でよく見えない上に顔の半分も窺えないから、その正体を明確にしたかっただけなのかもしれない。
黒に見える髪は光が当たる部分だけ蒼い。
微笑みを浮かべる口の端にはフープ型のピアスが付けられていた。
フードを取られるときに見えた爪は黒く塗り潰されていた気がする。
でも……子供、だ……。
自分より2つか、3つくらい上に見える。
「……誰?」
逸らされない瞳を見返し続けて漏れた第一声は、単純に彼が何者なのか知りたかったから。



