「闇夜の威光って知ってる?」
ついに問うことができたのは、空が仄明るくなってきたころだった。
僕はそろそろ帰ろうかというところで、祠稀は窓辺に座って煙草を吸っていた。
内心どきどきしていた僕の緊張は、すぐに後悔へと変わる。
「どこで聞いた、それ」
ゆらりと振り返った祠稀の声は低く、突き放すような冷たさを帯びていた。
しくじった……? でもやっぱり、知ってるんだ。
「あの、中華飯店……祠稀を待ってるとき、近くに座ってた人が話してて……」
口を開き掛けた祠稀が、なかったことにするように煙草を吸う。返ってきた言葉は「あっそう」だった。
一応、店主が言っていたように人前で話すことは避けたんだけど……。
「なに。興味あんの?」
話題に出すことすら芳しくなかったらしい。鼻で笑った祠稀の態度が、そう言っている。
「別に……そういうわけじゃないけど、」
僕が耳にしたのは断片的で噂程度の情報だ。
聞き流していたんだから、興味があるのかと言えばそうでもなかった。
だけど、思ったんだよ。
頭を働かせているうちに、疑問が浮かんだ。
クロが言っていた通り、祠稀が昔からこの街にいるならば、去年の秋に起きた事故を知っているんじゃないかって。



