Hamal -夜明け前のゆくえ-



なにかを炒める音とか、食器を置く音とか、小さすぎるテレビの音とか、斜め後ろに座る男性ふたりの会話とか、カウンターでビールを注文するおじさんの声とか。


「なあ。先輩に聞いたんだけどさ、お前知ってる?」

「知らね」

「この近くにあったらしーよ」

「なにが」

「闇夜の威光の溜まり場」

「マジ!? 威光って神出鬼没だったんじゃねーの!?」

「バカ声でけぇよっ……」


斜め後ろで温度差のある会話をしていた男ふたりが、急に熱を持って話し出す。


僕は耳に入ってくるそれを見てはいないテレビ番組のように聞き流していた。


「潜伏先見つからねーって有名だったじゃん」

「それがなんか去年の秋だかに、この近くで事故だか事件があったんだと。それ以来威光が消えたから、もしかしてその事故が原因なんじゃねーかって」

「へー……。この辺って今は店ほとんどねーもんな。溜まり場に最適っちゃー最適か? で、事故ってなんなの?」

「人が飛び降りただか、突き落とされただか」

「げー。それはいくらなんでも嘘くせぇべや」

「かなぁ? でも先輩が気をつけろマジやべーからってしつけぇんだもんよ」

「なにがやべーんだよ。威光ってもういねえんだべ?」

「それがさ、ひとり――…」


「はぁーいっ餃子お待ちどぉっ!!」


どんっ!と、突然目の前に現れた餃子と威勢のいい声に目を白黒させる。