テーブルの前に座ってヨーグルトを食べ始めた鈴さんは、「寝るの朝だしね」と笑う。
……どうしよう。今さら鈴さんに会いに来たとも言えないし、手早く用事を済ませたほうがいいかも。
「あの……鈴さんにお願いが、」
「お願い? なに?」
「祠稀の連絡先、知ってますか?」
「あーうん、知ってる知ってる! っても、メアドだけなんだけど……」
スプーンをくわえたまま鈴さんは背後のベッドに放っていた携帯に手を伸ばし、「ちょっと待ってね」とそれを操作する。
本当はあのビルにいつ祠稀が来てもいいように、連絡先と名前を書き置きしておこうと思っていた。
だけどクロに見られたら……と考えたらできなかった。
「赤外線で送ればいい?」
「えっ……あ、はい。えと、……」
「あははっ! もしかして買ってもらったばっかり? 貸して。やってあげる」
すいません、と小声で言った僕に操作方法を教えてくれた鈴さんを、優しいひとだと思った。
電話帳に登録された、祠稀に繋がるメールアドレス。
英字と数字で作られただけのそれを鈴さんに訊きにくるほど欲していたというのに、僕は狂喜するわけでも安堵するわけでもなく、繁々と見つめるだけだった。
まるで初めて見たものに好奇心を煽られたみたいに。
もしかしたら高揚すらしていたのかもしれないけれど、それを表に出すことはなくて。
僕はただ忘れないように、失くさないようにと、手に収まる一縷の光に見入っていた。



