Hamal -夜明け前のゆくえ-



洗いたい。洗い流してしまいたい。

なにも、なかったことにできたらいいのに。



フードの裾を引っ張ったまま、ぎゅっと目を強く瞑る。


同時に食い縛った歯はカチカチと震え、瞼は熱く、なにかを零れ落とそうとしていた。


消えてしまいたい。
なにもなかったことにしたい。


そう願う自分の存在はひどく薄くて、まるで飾り物にもなれない埃を被った置物みたいだ。


たとえそこに存在していようとも、愛着など湧かない。目に留まろうとも、邪魔でしかない。


だから傷付けられる。どこまでも乱暴に、執拗に、ためらいもなく。


傷など素知らぬ顔をされて、無様な姿で捨てられる不変のエンディング。


そのたびに要らないものであると自身に刻まれた瞬間がオープニング。


繰り返される、昨日と似たような今日。



「……死にたい」


ぽつりと零れた言葉は震えていた。体ぜんぶが重くてたまらなかった。


これを拾ってくれる誰かなんていなくて、死ぬときでさえ独りかと自嘲した。


情けない。なにもかもが情けない。


死にたいと口にすることはできるくせに、本望のひとつも言えない自分。


家に帰ることも、ここから動くことも、眠ることもできない。


夜が明けるまであと何時間?

安心できるまであと何時間?

涙が枯れるまであと何時間?



長い。途方もなく長い時間が暗闇を引き連れて、足元から背筋まで這い上がる。



「――っ」


たすけて。