「――ねえ」
一瞬思考がフリーズした僕は、かけられた声の覚えに記憶を引っ張り出した。
前方を見るとそこにいたのは鈴さんらしき人で、道端で立ち尽くす僕の顔を見るなり駆け寄ってくる。
「やっぱりあのときの子! あたしのこと覚えてるかな?」
目の前に立たれたとき、ようやく本人だと実感する。化粧をしていない鈴さんだった。
「……鈴さん、」
「わ、覚えててくれたんだねーっ。なんかすっごい久しぶりな気がするね。どうしたの? もしかしてこの辺りに住んでる?」
「や、えっと……」
まさか偶然出くわすとは思わず、数秒遅れて戸惑いが滲んだ。
こんな深夜に家を訪ねようとしたなんて、考えなしだった。
初めて会ったとき、あっさり祠稀を家に入れていたから、そこまで考えが及ばなかった。
「ね……、もしかして怪我してない?」
ぎくりとした僕は、袖で無意識に口元を隠していたことに気付く。だけれど頬骨あたりにできた傷は、丸見えだろう。
……打撲傷と擦過傷だ。大したことない。
「よかったらうち寄っていきなよ! すぐそこだし、消毒くらいならできるよっ」
「え? ……や、あの、」
大丈夫です。と言う前に手首を掴まれてしまい、僕はその手をどうすればいいのかわからず、鈴さんについて行くしかなかった。



