心惹かれるものがない。


有名な絵画や陶器を見ても。著名なカメラマンが撮った写真にも、人気歌手が歌う曲にも歌詞にも。


心が奪われるようなことはただの一度もなかった。



世界になにかひとつでも惹かれるようなものがあるとするなら、僕にとってそれは祠稀じゃないかと思う。


どうしてこんなにも惹かれるのか自分でも不思議だった。


同性で歳が近いからかもしれない。


自分とは真逆に思えて似た部分がなにかしらあるのではと。今まで会った人とは違うと。あの歓楽街を通して思い込んでいるからかもしれない。


理由を並べたところで、僕が祠稀と一緒にいたいと強く思えば、理由なんていらないのだけれど。


きっと出会ったときから。


たぶん、あの屋上でよりいっそう。


なにを見ても惹かれない心は、祠稀にだけは強く揺さぶられるようになった。



そして僕は意味もなく大声で、泣きたくなるんだ。