どれだけ泣いていただろう。


仄暗くなっていたはずの部屋が赤みを帯びている。窓の外で、大きな雲さえも茜色に染め上げる夕日を浴びていたからだった。


……時間だ。


自然とそう思った僕にじりじりと募る焦燥感のようなもの。それが、無性に会いたい気持ちだと気付く。


目と頬を乱雑に拭いながら立ち上がったとき、なにかを蹴飛ばし、目に入った“なにか”は四角い箱だった。


見覚えのない箱。だけれど見ればなにが入っているかわかる箱。


僕に時間を教えてくれた茜雲と沈みかけた夕日の明るさは、箱の中身を見るためのものに変わっていた。


襖がわずかに開いていたのは、母さんが部屋を覗いたからじゃなくて、部屋に入ってきたから。



「ははっ……」


思わず漏れた、乾ききった笑い。


驚くほど簡単に手に入ったからか、さっきまで流していた涙が無意味に思えたからか。


理由はどちらでもよかった。どうでもよかった。


僕と祠稀とを繋ぐ、目に見える確かなものが手に入ったのだから。



黒に見える携帯は窓にかざすと、ちらちらする紫の輝きをまとっていた。