極力顔を見て言ったつもりだけれど、タオルとドライヤーを手渡す時には俯きがちになる自分がいた。
額の傷を見られたという恐怖と、消えかけている肩の痣がワイシャツ越しでも見えているんじゃないかと懸念を抱いたからだ。
どうしてこんなにも、怖いのか。
「気をつけて帰れよ」
そんな保健医の言葉で“なにもなかった”ことになっているはずだと思うのに、平常心を保てない自分がいた。
普通にしなければ。普通にお礼を言って、さよならのあいさつをして、ドアを閉めて、下駄箱に向かう。
大丈夫だったかな。
怪しまれなかったかな。
自分の行動を振り返り、“ちゃんとできた”と肩から力が抜ける。そうして帰路につけたらよかった。
伸ばしかけた手の先に、偽りの光明。
下駄箱に入る真新しいスニーカーの光沢を見て、足元から絶望が顔を出した。
じわじわと、なぶるように這い上がってくるそれを振り切ろうとすると、今度は紙袋に入ったパーカーの存在が膨れ上がる。
――嫌だ。
呑まれたくない。立ち止まりたくない。
必死にもがく僕に、四方から聞こえる楽しげな声の追い打ちがかかった。
どうして僕は、『助けて』のひと言が口にできないんだろう。



