祠稀と過ごせる時間は、夕陽が沈みかける頃から、朝日が昇り始めるころまでだった。
「踏み込みすぎんなって何度言えばわかんだよ。当たってんだろーが」
「……」
「おら、食らってんぞ、おい」
祠稀は拳で軽く僕の頬を叩いてくる。
なぜかここ数日、蹴りの練習をさせられていた。
「お前これでよろけたら頭掴まれて、顔面にひざ蹴り食らうぞ。倒れても馬乗りで殴り付けられる。こんな風にな」
どんっ、と急に両肩を突き飛ばされて尻もちをつくと、すかさず祠稀が僕を押し倒してまたがってきた。
「やめ……っ!」
振りかざされた拳にぞっとして両手首を顔の前で交差させるが、祠稀は殴ってこなかった。
反射的につぶった目を恐る恐る開ける。どこか呆れたような表情の祠稀が、僕を見下ろしている。
鼓動が嫌な感じで速まっていた。
「防御すんのはいいけど、目ぇつぶってんじゃねえよ」
溜め息をついた祠稀は「立て」と腰を上げる。僕は上半身だけ起こし、手についた砂を払った。
……嫌なんだけどな。こんなこと、あまりやりたくない。
祠稀に殴られて気絶したことのある僕のひ弱っぷりを気遣っているんだか知らないけれど。
『人目を避けるのが面倒だったから』という理由で気絶させられたのも納得いかないし。
いくら『この街の奴は血の気が多い』とか『ひとりでいるときに絡まれたらどうするんだ』とか言われても。