「――えっ!?」
思わず1歩退く。
目に映ったのは、屋上をぐるりと囲むフェンスが1枚だけ欠落しているそれだった。
不自然なまでにぽっかりと在る空間。周囲のささやかな明かりがあっても、そこだけはいやに黒みを帯びていた。
暗澹。それがこちら側なのかあちら側なのか判別できないほど。
在るべきものが存在しないその場所に、僕は相違なくおぞ気がついていた。
どうしてここだけ、と。落ちたらどうするんだ、と思わなかったわけじゃない。
恐怖よりもほんの少しだけ、欲求が勝った。
退廃した街を俯瞰する僕を、巻き上がる風だけが通り過ぎる。
なにもない……。
覗き込んだ下の世界には、コンクリートの地面と大きな樹や放置された花壇くらいしかなかった。歩く人すらいなかった。
さびれている。それも、とても寂しげに。
忘れ去られた街に残るものはどんなものなんだろう。
大勢の人がいたと感じる場所。活気づいていたときがあったと感じる場所。今となっては見ることができないそれらは今も強烈で、引力のあるもののように思えた。
たとえ過去を知らなくとも。同じときを歩まなくとも。救いを装った同調は至るところに点在している。
わかっていながら暗闇に手を伸ばした僕はただ、なんでもいいから掴みたかった。



