なかなか手早く食べられなかったけれど、祠稀が先に箸を置いた頃には、張り詰めていた心が少しだけ弛緩し始めていた。
「そういえば、ね。クロって人に会ったよ」
煙草に火をつけた祠稀が「クロ?」と視線をよこす。
「えっと、クロとかユウとか呼ばれてる」
「ああ、アイツか。ベラベラしゃべってうるせえだろ」
「……彼女?」
「はあ? ちげえよ。で? 会ったって、どこで」
「あ……。あの、ここで会った……ごめん、勝手に入って」
「ここ? お前、ここ来たの? いつ」
「ふ、2日前の、夕方……」
驚いた様子の祠稀は何気なしに俯き、額を掻いてるようだった。
怒られるかと思ったのだが、顔を上げた祠稀はどうしてか口角をあげていた。
「2日前ならいねえわ」
「……、うん。クロが言ってた。あと2日くらいすれば戻ってくるって」
「アイツまじでうぜえな……――俺になんか用?」
「え?」
あ、そうだ、僕――。
「どいつがクロだって?」
巡らせていた思考が遮られる。祠稀が見ているのは僕の背後らしかった。
振り返ると、わずかに開け放たれたままだったドアの向こうからクロが顔を出す。
「毎度どうもー! しがない情報屋のクロかもしれないクロでっす!」
「うぜえ」
「困るなあーもう。しぃ君ってば壁の向こう側を透視できちゃったりする?」



