Hamal -夜明け前のゆくえ-





どれだけ表を繕っても必ず綻びる瞬間があると、なにかの本で読んだことがある。だから顔に出るという言葉があるのだろうか。


僕から言わせてもらえば綻びなんて生易しいものではなく、反動もしくはリミッターの解除および制御不能とたとえたほうがしっくりとくる。


それくらい、義父が持つ昼と夜の顔には雲泥の差があった。



特別気分がよかったわけじゃなくても、理不尽な暴力を受けたあとでは数時間前の気分がとてもよかったように思えた。


居間の隅で横たわる僕には歩く気力さえ残っていない。


このまま眠ってしまいたいのに、恐怖心が僕の代わりに辺りを見張っている。


研ぎ澄まされた神経は、物音ひとつ聞き逃さない。


テレビの音量のほうが大きいはずなのに、グラス同士がぶつかる音や母さんと義父の談笑のほうがよく聞こえる。


すると、擦るようにして畳の上を歩いていた足が視界に現れた。



上目を使えば、グラスを持った義父が僕を見下ろしている。


「なに見てやがる」


……見ていたのは、そっちじゃないか。


目を逸らすと、頭上のすぐそばで激しい物音が響いた。


投げられたグラスが壁に当たって割れたのだと理解したときには、胸倉を掴まれていた。



強引に起こされた僕の目に振り被った義父が映り、体中に戦慄が走る。