無意識に忍ばせていた足音が止まる。
おずおずとドアから顔だけ覗かせてみると、見覚えのあるソファーが陰影をつけていた。
誰もいない。
帰ろうか、と思った次の瞬間には部屋に足を踏み入れていた。
ソファーとガラステーブルが対になって部屋の中心に置かれている。
ドアのすぐそばにあるカウンターテーブルとハイスツールの奥には、台所のようなものがあるが、水道は通っていないだろう。
真っ直ぐ出窓に向かうと、外には大きな樹があった。下を見れば車1台通れるほどの道を挟んで、向かい側に2階建ての廃屋もある。
ふと横に視線を移すと、はじめて見る空間があった。
本棚らしきものと、机に椅子、カーペット。全て埃を被っており、使われていないことは一目瞭然だった。
どうやら元はふたつに分かれていた部屋を、壁をぶち抜きひとつにしたらしい。
以前来たときは余裕がなくて気付かなかったけど、間取りが変だ。
見てみる分にはいいよね……。
「ふほーしんにゅー」
出窓から一歩離れたときだった。
勢いよくドアのほうへ顔を向ける。けれどそこに人影はなく、辺りはしんと静まり返る。
な、に……誰。今、確かに声が……。