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化膿することもなく治癒してきた額の傷口は、薬を塗るときだけじくじくと痛む。
ガーゼから絆創膏に変えてみるも、傷ができてから5日目の今日も目立つことに変わりはなかった。
洗面所の鏡で確認しながら、絆創膏が見えないように前髪を梳く。
しばらく前髪は伸ばさないと。
はあ、と溜め息をこぼし台所に向かう。シンクは相変わらずの惨状で、回収日はいつだったかと記憶をたどりつつ、未使用のコップに水を注ぐ。
……おいしくない。
ちらりと目を遣ったのは、わずかに酒が残ったワンカップだった。
見た目は水と同じだけど、……。
顔を覗かせたのは、単なる好奇心。
息は止めておいた。カップのふちに口をつけ、ぐいっと残っていた酒をすべて口に含む。
瞬間、苦いのか辛いのかたとえようのない味がして、「うえっ」と勢いよくシンクへ吐き出した。
まだ口内にまとわりつくものを唾と一緒に飲み込むと、なぜか喉が少し熱くなった。
急いで最初に飲んだ水を飲み干しても、口の中がおかしい。
においどころか味まで最悪だ。次から次へとあおってるから、よっぽどおいしいのかと思った。
――なんだ、これ。
こんな……僕は、こんな飲み物のせいで。
ガシャンッ!と、シンクの隅に追いやったカップや空きビンを片付けようと思う気持ちは消えていた。
なにも見たくなかった。なににも触れたくなかった。
自分ひとりしかいない箱の中で、僕はぎゅっと目を瞑って拳を握り、堪えた。
これ以上、胸の内にある深淵を覗き込まないように。
その常闇に、魅入られないように。