Hamal -夜明け前のゆくえ-





早朝は静かで、落ちついて歩ける。


景色も空気も混じり気のない綺麗なもののように思える。


綺麗じゃないものはすべて、夜と一緒に溶けて消えてしまったと思える。


晴れていようと、雨が降っていようと――曇っていようとも。


絹のような薄い雲で覆われた空の下。2階建てのアパートは古く、わずかな陽光を浴びても、それを反射するのは錆だらけの外階段くらいだ。


……7時は過ぎたよね。


コンビニで時間を確認してから10分は経っているはず。


たぶん、もう、家を出てるはず。きっと、あれに乗ってるはず。


聞こえる電車の走行音に耳を澄ませながら、重くて堪らない足を前に出した。


すると前方からランニングをしている人が見え、すれ違う前に、と小走りでアパートへ向かった。


軽快に走り去っていく人を見送ったあと、一段、また一段と外階段を上った。


――大丈夫。平気だ。


誰もいない。
あの人たちは、いない。



ドアノブを回して中に入った途端、目に入ったスーツに全身が粟立つ。


怖々と目線を上に向ければ、自分とまるで似ていない男が僕を見ていた。


目を逸らして靴を脱ごうとするが、「おかえり」と声をかけられたことで動きがもたつく。


落とした視線の先には、爪を桜色で塗り潰した足があった。