振り翳された一升瓶。
とっさに掴んだ空きビン。


攻防に使われたそれらが激しい音を立てて割れる。


威力を半減させられなくても、直撃は免れるはずだった。


本気の一撃に、とっさの自衛が敵うはずもなく。激痛の中に皮膚が切り裂かれた感覚があった。


痛みに悶える自分の声は獣が絞り出すようなそれで、どろりと視界の隅に流れた赤色に戦慄する。


畳に落ちた血のかたわらには、血の付着したガラスの砕片が落ちていた。


恐怖で失いそうな意識をなんとか保つために拳を握り締め、歯を食い縛り、かすむ視界の範囲を上へと拡げた。



なにも望んでいなかったと思う。


すがる気持ちも、媚びる気だってなかった。


ただ負けたくなかったんだと、そう思う。



だけど仰向いた先にいたのは、


『僕』を見下ろす酷薄な化け物だけだった。