Hamal -夜明け前のゆくえ-



引き返そうにも他に行くあてなどなくて、重い足を引きずるようにしてたどり着く場所。


たどり着いても数時間後には放り出される、一時の安息の場所。


居座ることが許されても痛め付けられる、存在を無視される、空間。


「帰りたくない」


だらりと下がった頭の端が、痛む。


ずきんずきんとした痛みが昨晩のことを思い起こさせ、家までの道のりをあやふやにさせる。



いっそなにもかも忘れてしまえたら楽なのに。


あの空間で起こる出来事も、母親も、義父も。情けない、怖いという感情も。


自分のことさえ忘れてしまえたなら、きっと、とても、とても、楽になれるだろう。


自分で死を選ぶよりずっと、ずっと、痛くはないだろう。



キンッ――と、またジッポの音がした。顔を上げれば、祠稀がまた煙草を吸っていた。


「お前が帰らねえと俺が寝らんないんですけど」

「……」

「それと。なにを勘違いして期待してんのかは知らねえけど、お前、俺にのされたこと忘れたか」


自然と体に力が入った。祠稀は足を組んでこちらを見ている。その表情は逆光を受けて陰り、心中を汲み取れない。


だけれど、言われたことは理解できてしまった。