Hamal -夜明け前のゆくえ-



「食ったなら帰れよ」


ちゃぽん、とペットボトルの中で水が跳ねる。


「それ、やるよ」


飲んでいた水を顎で差してきた祠稀は何本目かわからない煙草を揉み消し、欠伸をひとつ零す。


「……眠いの?」

「見りゃわかんだろ。俺の寝床は今現在お前が座ってるソファーだ」


ちらりとソファーに目を落とす。でも腰を上げることはない。


「祠稀、は……ここで暮らしてるの?」

「その日によって違う。今日はもう動きたくねえ」


それってつまりどういうことなんだろう。


この場所以外にも、寝泊まりする場所があるってこと?


ここを家だと言うくらいだ、ありえる。


だけど『家』というのはふつう、別の場所を差すだろう。


当たり前のように足が向かう場所。帰りたいと思える、居場所。


そんなものをひとつも持っていない自分にとって、『家』というものはひどく曖昧で、不確かな存在だ。


道のりの景色さえ思い返すことができず、歩行すら困難にさせるほど。


だからいつも、繰り返し、同じことを思う。



「……帰りたく、ない」


帰らなければいけない。帰る場所はあそこしかない。だけど帰りたいと思えない。