「一発食らっただけで4時間も気ぃ失うとか、お前弱過ぎだろ」
そうだ、殴られたんだった。
礼を言う前に聞くことがあったと思い出したのに、4時間という言葉のせいでうまく頭が働かなかった。
「よく今まで無事でいられたな」
祠稀はまだおかしそうな声音で言いながら出窓に腰掛ける。それを目で追いかけ、外が仄明るくなっていることに気付いた。
4時間ってことは今、朝の5時くらい……?
キンッ――というジッポの軽快で高い響きが耳に届く。
ゆらめく青とオレンジの炎が、白く細長い煙草の先端を燃やす。
火種は祠稀が息を吸い込むたびに赤色を増して、舞い上がる紫煙の中にすうっと溶ける。
どうして。そう、言いかけて。
食わねえのか。と祠稀が言うから、黙って袋の中に入っていたプラスチックの容器を取り出した。
温かくはなく、けれど冷え切っているわけでもない、安上がりな牛丼だった。
サイズは特盛りで食べきれるかと心配したけれど、無心にかき込むことができたのは朝食からなにも口にしていなかったからだろう。
白米と牛肉と玉ねぎと七味唐辛子。たったそれだけのものをこんなにも美味しいと思ったのは、たぶん、初めてだった。
そんなことで涙が出そうになったのも、初めてだった。



