地面も、壁も、天井も、無機質なコンクリート。打ちっぱなしのそれはどこか廃墟を思わせ、かつ人を寄せ付けない重厚さがある。


横を見れば大きな出窓があり、ここが1階ではないことが外の景色から見てとれた。


「ここ、どこ……?」

「家」


いくらなんでもこんな場所が『家』と言われて納得できるほどバカじゃない。


それでも返ってきた答えは予想外で、言葉に詰まっているあいだに「飯は?」と聞かれる。


「食うならお前の分も買っておいたけど」

「……、食べる……」


祠稀はハイスツールから降り、カウンターテーブルのような場所から袋を取って歩み寄ってくる。


がさがさとしたビニール袋の擦れる音が、足音よりもいやに響く。


……やっぱり祠稀だ。


そんなことはとうにわかっていたのに、大きな窓から零れる明かりが祠稀の正面を照らし、目でも認識できたことにほっとした。


「ほらよ」


ソファーの前にあったテーブルに袋とミネラルウォーターが置かれる。


「ありがとう……」


テーブルから灰皿を取り上げた祠稀は、くっ、となぜか堪えきれなかったように笑った。