「……ひ、と」


だから今、かろうじて知りたいと思えるものを優先した。


感じていた恐怖も不安も押し退け、呼び起こされたまま引かない鈍痛も無視して。目の前にいる男の子を知るために、ついていきたかった。


きっと、すがりたかったと言ったほうがいいんだろうけれど。


「人目に、つくのが、いや……です」

「人目ねぇ……まあいいけど、避けんのもダリーな」


ひとつ返すと、ふたつもみっつも返してくる祠稀。


ちらりと視線を上げれば、祠稀は灰色のダメージデニムのポケットから手を出して歩み寄ってくる。


てっきりまたひとりでさっさと歩いていくのかと思っていたから、祠稀が進む道は自分の背後なのだと、身動きを取らずにいた。


祠稀が横を通り過ぎたら、あとを追う。


当たり前のように浮かんでいた次の行動。


けれどそれは、迷いのない足取りで進んできた祠稀に妨げられた。


ズンッ――と、重く、かつ確かな攻撃力を備えてみぞおちにめり込んできた拳は、声にならない吐き気をもたらす。


「――……」


避ける暇がなかったわけじゃない。殴られると予想できる瞬間そのものが、なかった。



「わりぃな」


今度こそ確実にかすんでいく視界の中で、顔の半分以上を覆う祠稀の髪がなびいてた。


どうして……。


「弱いやつはいらねえ」



どうして祠稀は、顔を隠しているんだろう。