「祠稀は……変わらないよね?」
トンと煙草を指先で弾き、灰を地面に落とした祠稀は笑う。
「変わらねーよ」
そう言って、僕の頭を被っているフードごと手荒に撫でてくれた。その手は今も変わらず『ここにいていいんだよ』と言ってくれている。
だけど、いつかきっと。
この手が離れてしまう日は来る。
今は全く想像がつかなくても。そんな日が来たらって考えることはできて、考えるとたまらなく寂しくて、悲しくなるけれど。
もし描いた通りの未来にはならなくても、ここまで来た自分の道を捨てずにいられたらと思う。
不格好でも、寄り道になってしまっても、歩き方を忘れないように生きていけたらと思う。
「おーいチカ、ってあれ……リーダーもいたんすか」
「その呼び方やめろって言ってんだろ!」
「来てたならメンバーに顔見せるくらいしてくださいよー、みんなのリーダーなんだから」
「わざと呼んでんな、あいつ。いっぺんシメるか」
屋上に来たナツを祠稀は睨むけれど、もっと呼べばいいと思ってる僕は笑って流した。
「どうしたのナツ。資料まとめるにはまだ情報足りてないでしょ」
「いや別件、ってわけでもないかも。今調べてる奴らの詳細が手に入ったんだけど、情報源が謎なんだよなー」
「タダの情報は怖いから信じないよ、僕」
「いやまあそうなんだけど。すげえ細かくてさ、一応ふたりに見てもらおうと思って」
三つ折りのあとが付いたコピー用紙数枚を祠稀が受け取り、目を通し始める。
「最近さ、やたら情報通の女が出入りしてるって話耳にしたんだよ。聞いた限りじゃ、前にチカと祠稀が言ってた奴とは見た目が違うんだけど」
手紙を読むように1枚1枚目を通していた祠稀の手が止まる。
最後にあったのは細長い茶封筒。祠稀はそれを裏返し、息を呑んだ。
「今さっき俺は夜食を買いに出て、戻ってきたら裏口になかったはずのそれが置いてあったってわけ」
祠稀と、僕の目に映ったのは、封筒の左下に小さく描かれたネコだった。
ボールペンでぐるぐると円を書くように黒く塗りつぶされたそれは、軽快で、機嫌の良さそうな音符の代わりにも見えた。
「それ、黒猫だよな?」
――くっ、と笑い出したのは僕が先か、祠稀が先か。わからないけど、僕等は声を出して笑った。
本物か偽物かなんてどちらでもよかった。
でも彼女を思い出したから、急になんの用だろうと思ったし、今までどこにいたんだろうと思った。
また繋がったと、もしかしたらこれが最後なのかもしれないとも思えた。
「はー……ホンットおもしれえことしてくれんな、どっかの誰かさんは」
「後先考えずで生傷の絶えない誰かさんを見かねて、自分のほうが優秀、って今頃ほくそ笑んでるのかもよ?」
「上等じゃねえか。なあ、ナツ」
「あぁぁぁあああ!?」
ぐしゃりと封筒ごと丸めた祠稀に、ナツは青ざめた。
「なにしてんだよっ!! まだコピーとってねえのに! 裏さえ取れりゃ使える情報なんだぞ!?」
「ならさっさと使えるもんにしてこい、よっ!」
大きな弧を描いて投げられた紙ボールを、「ぎゃー!」とナツの叫びと足が追い掛ける。
「雪! まだ雪あっから! インク滲むだろうがぁあああ!!」
「うるせえ奴だな」
「僕は賑やかで好きだよ」
「物は言いようだな」
微笑んだ祠稀に笑い返し、ふたりで怒るナツの元へ向かった。
今日という1日さえ、なにが起こるかわからない。
明日のことはもっとわからない。
それでもこの先を辿ることはやめられないから。
僕等の夜明け前はいつだって前夜なんだと、そう思う。
【END】



