手を振ってくることも声を掛けてくることもないまま、クロは再び前を向いて歓楽街の奥深くへ進んでいく。
その軽い足取りから、いつかふっと消えてしまうように思えた。
彼女を気に留めてくれる人は、他にいるんだろうか。
……いてほしい。
僕は、なにもしてあげられないけど。
きっと、ずっと、クロのことは忘れられない。
ふとした瞬間に思い出すような気がする。
そんな存在が、僕にはどれだけいるだろう。どれだけそんな存在に、僕はなっているんだろう。
自分は他人から見ればどうしたって人混みの中のひとりで、誰かのたったひとりであるとさえ思われない。
人はそれぞれの世界を持っていて、そこで生きていて、住人も違うんだから嘆くことじゃないんだろう。
でも、一度は目に入り、言葉を交わし、時間を共有したのなら、相手の世界と繋がってしまう。
たったひとりになれなくても、特別に大切にしてもらえなくても、知り合えば世界はおのずと繋がり拡がっていく。
だから取り残されてしまうのは、寂しくて。
「ねえ。おひつじ座で1番明るい星はなんていうか知ってる?」
無数の星が輝く天を仰ぐと、隣に並んだ彼は視線をよこしてから僕に倣った。
「知らないけど。ていうか星座自体、見てもわかんねえし」
「僕も。大きさが違うだけで全部似たようにしか見えない」
星にはそれぞれ名前があって、複数の星を結べば星座にもなるらしい。



