自分で傷を確認したわけじゃないから、どうなっているのかわからなくて。


彼女の目に、この傷はどう映っているのか怖くて。


聞かれても困るけど、傷の原因も、子供が夜中に出歩いている理由も、問われないことが逆に不安を煽った。


「ここ、血が出やすいからびっくりしたでしょう。でも思ったより深くはないから、縫合は必要ないよ」

「……」

「傷は少し残っちゃうだろうけど――うん、大丈夫。塗り薬あげるから、1週間くらい様子みてね。はい、終わりっ!」


額の端にガーゼとテープの感触を残し、留められていた前髪が降りてくる。


「ありがとう、ございます……」


かろうじて発っせた言葉に彼女は片付ける手を止め、「どういたしましてっ」と明るい声で言った。


「きみもなんか飲む?」


次いでかけられた声に首を左右に振れば、数秒の沈黙。


「無口な子だね。遠慮してるのかな」

「馴れ馴れしいってよ」

「祠稀は図々しいのよ」

「それが取り柄なもんで」


そんな会話がすぐそばで成されても、結局この部屋から立ち去るその瞬間まで、彼女に言えたのはお礼だけだった。