Hamal -夜明け前のゆくえ-



「……おかげさまで助かったよ」


再び赤から青になった横断歩道を渡り始めた祠稀が、ぽつりと言った。


「あと、心配して損した」


僕を見遣った表情も、声も、いつもの調子に戻っている。


「素直にありがとうって言えないの?」


ちょっと強気に皮肉な口調で言ってみれば、祠稀は薄笑いを浮かべる。


「ひねくれてるからな」


そう言っておくことで、まるでひねくれ者で在ることを許されたいみたいだ。






「祠稀がやってること、次は僕にも手伝わせて」


薄暗いビルの一室に唯一存在するソファーに座った祠稀は、煙草に火を点けるのを後回しにした。


ひとり立っている僕を見上げてくる祠稀の表情は、真剣だ。


「本気かよ。なにも知らねえだろ」

「なにも知らなくはないけど、僕が知らないことがあるなら教えてほしい」

「……」

「話したくないならいいよ。祠稀の過去に興味はあるけど、僕が求めてるのはこれから先だから」


数秒の間を置き、祠稀がふっと小さく笑った理由はわからない。呆れたのかもしれない。


でも僕が本気であることは、なんとしてでも伝えようと思った。


「なにをどれくらい知ってんだ、って……そういやお前はクロに聞いたんだっけな」