「祠稀は目が覚めてからずっと僕の身を案じてるみたいだけど、心配なんて、僕だってしてる」
祠稀は本名のまま、この歓楽街に入り浸っているから。
意味なんてないと言っていたけど、ある程度は信頼が必要であろうクロでさえ、ユウって複数の偽名を持つのに。
なにも怖くない。
思うように生きられれば、自分がどうなろうと知ったことじゃない。
そんな風に生きている祠稀はきっと、自分を守れない人だ。
それなら僕が、盾になる。
ありのまま生きる祠稀には簡単にたどり着けないように。壱佳も捨てないまま、チカという防具を被って、祠稀を守るよ。
「祠稀が僕にもっとちゃんと考えろって言うなら、僕は祠稀に、もっとちゃんと自分を大事にしてほしいって言う」
「……」
「あの夜、中華飯店に電話が繋がらなくて、鈴さんには追い返されて……やっと浮かんだのがクロだった」
もうクロしかいないと思ったし、情報料を求められることは電話をかける前からわかり切っていた。
だから決めたんだ。もう『一緒にいたい』って気持ちだけじゃ、一緒にいられなくなると思って。
自分に力がないから他人を頼ったその代償は、“紫堂チカ”じゃない。
「クロに払ったのは僕の“これから”だから、祠稀はそんな風に言うんだろうけど。僕は、心配してほしくて祠稀を助けたんじゃないよ」
じゃあなんだ?なんて聞かないで。
僕はとっくの前に伝えたよ。祠稀だって、言ってくれたよ。
「さっぱりわかんねえ」
微苦笑した祠稀は俯き、
「なんでこんなに懐かれたんだか」
まるで秘めていた思いのかけらを声にしたように、とても小さく、呟いた。



