負けるなと自分を奮い立たせたあの夜。
クロと祠稀と同じ土俵に上がるなら、今しかないと思った。
僕は今までふたりが生きている世界を、ふたりの近くで見聞きしていただけで。言ってしまえば、蚊帳の外だった。
だから僕はいざというとき、うろたえて。手際よく祠稀を助けられず、クロを頼ることになって。そんなのはもうこりごりだって、思ったんだ。
あの夜だったからこそ、僕はようやく決意を固められた。
「今からでも遅くねえ」
「……、なにが?」
静まり返ったアーケードを抜ける間際。
時計台が午前2時過ぎを差しているのを見上げてから、祠稀は赤信号で渡れない横断歩道の前で足を止めた。
「もっかいクロに適当な偽名伝えろ。この前は嘘ついたって、バレたらって考えると怖くなって連絡した、ごめんって。そのくらいの演技ならできるだろ」
「……僕の話ちゃんと聞いてた? いいんだよ、バレたって」
「お前が先に俺の話流したんだろーが。もっとちゃんと考えろ」
俺には言われたくねぇだろうけど的なことも言ってたじゃん……。
「考えてるよ、ちゃんと」
「まあいいかで済ませてんのは考えたって言わねーんだよ」
「そっくりそのまま返すよ?」
「調子乗んな」
眉を顰め眼光を鋭くさせた祠稀を、どうしてだろう。怖いと思わなかった。
「乗り越えたつもりになって気でもデカくなったか? そんなもん気のせいなんだよ。朝になったら後悔すんぞ」
祠稀はいつも、どれくらい先の夜明けまで考えているんだろう。
「後悔してるのは祠稀のほうじゃないの」
祠稀が僅かに目を見張ったのと、僕が眉根を寄せたのはほぼ同時だった。



