Hamal -夜明け前のゆくえ-



マンションをあとにすると、エントランスを出るなり祠稀が嫌そうな顔をする。


「ここに住んでたのかよ……うわー趣味わりぃ」

「立派なマンションだと思うけど」

「歓楽街が徒歩圏内の場所に住むって思考がもうねえわ」

「……祠稀だって徒歩圏内どころか真横に住んでるようなもんじゃん」

「それはそれ、これはこれ」


なにそれ。自分勝手だなあ、なんて思いながら隣を歩く。


「悪かったな」

「え。……なにが?」

「手間かけたろ。鈴のとこに行くって言われたとき、正直診てもらえるかは五分五分だと思ったんだけど、あの辺からうろ覚えなんだわ。だからすげえ大変だったろうなと思ったんだよ」

「……祠稀って謝れるんだね」

「ああ!?」


睨んできた祠稀は、肩を強張らせた僕を見てばつが悪そうに目を逸らした。


「謝るだけの手間はかけただろーが。……クソ、心配すんじゃなかった」


心配? されるようなことしたかな。


まだ体が痛むであろう祠稀の歩調よりもゆっくり歩きながら、考える。


「あ。うわ……もしかして聞いた?」

「うわってなんだよ。クロからホンットうるせえメールもらったっつーの」


メールでうるさいって相当だよね。

やたら絵文字類で装飾された長文メールっぽいっていうのは想像がつくけど。



「アホだな、お前は。……苗字も適当に教えときゃよかったのに」


ぽつりと零した祠稀の横顔に浮かぶのは、まさに苦笑というものだった。


僕を愚かだと感じながら、僕を心配する気持ちもあるからだろうか。