Hamal -夜明け前のゆくえ-



なに効果っていうんだっけ……。


祠稀にとっていくつかの煙草の匂いは、特別な記憶を喚起させるものなんだろう。


「丹さんは祠稀が生きてて、また会えて、嬉しい?」


煙草を指に挟むだけの丹さんは微笑むだけで、答えてはくれなかった。



「ちらっと聞いたけど、あの夜喧嘩してた奴らの足取りは掴めてないってよ。このまま悪戯の通報ってことで収まるだろ」

「……そんなにうまくいくかな」

「きみらがなにをしてようが止めない俺然り、どの世界にも見て見ぬふりする大人はいるもんだよ」


そんな風にこともなげに言われたら、冗談も交わせない。


「でも大人だけじゃないよ」


子供の僕だって同じだと思う。


きっと未熟な部分が多くて、それを自覚したくないし、責められたくもなくて、大人の、世界のせいにしてしまうんだ。


祠稀を助けたい一心で呑み込んだ弱さは今も、憂鬱なくらい心をなぶっている。


これが生きていくには仕方のないことならば、僕は吹きさらしのような明日でも迎えにいかなくちゃならないんだろう。


「まあせいぜい足掻きなさいよ、少年」


丹さんは煙草を銜え、


「ふー……。お兄さんから言えるのはそれくらいですかね」


と、くゆらせた紫煙に包まれながら微笑みかけてきた。


僕も心持ち笑みをこぼせば、


「誰がお兄さんだ。オッサンが若作りすんな」


着替えた祠稀が現れ、丹さんの笑顔を引き攣らせたので、声を出して笑ってしまった。