Hamal -夜明け前のゆくえ-



「……さっさと鼻かめよ」


ふいっと顔を背けた祠稀はそのままリビングを出て行ってしまった。


きっと診察台や医療器具がある部屋に戻ったのだろう。祠稀の荷物や買っておいた新しい服を置いたままだ。


「俺どころか花も恥じらう青春盛りな光景だったね」


若いっていいわー。と丹さんは新しい煙草を銜えた。


……青春盛り? 祠稀が怪我をした原因も、丹さんに診てもらう経緯も、僕がぐずぐず泣いた理由をわかっていてもそう見えるの?


「そんな青春って、どうなんだろう……」

「アハハハハッ! 自分で言ってりゃ世話ねえなっ」


失礼なほど大笑いする丹さんとは、祠稀が目覚めなかった2日間で打ち解けた。親しくはないけど、遠慮はそんなに残っていない。


たまたまなのか引き合わされたのかは知り得ないが、丹さんと祠稀は顔見知りだった。


僕は気を失った祠稀を背負い、クロに紹介された通り丹さんが住むマンションにやってきたのだが、『誰?』と怪訝な顔をされ、祠稀に気付くなり『懐かしい顔が来たもんだ』とすんなり家に入れてくれた。


『生きてたのか』とも驚いていたけれど、その言葉は流した。



祠稀がヤブだなんて言っていたのは、丹さんへ素直に感謝できないからなんだと思う。それか久方ぶりに再会して、どんな顔をすればいいのかわからないのかも。